壁を乗り越える
3月末から始まった新型コロナワクチン接種は、現在、優先接種の第2グループである65歳以上の方々への接種が行われています。
当院でも、関連施設への往診での接種と並行して、昼休みの時間を割き、一般個人接種を院内で行っております。 このワクチンは世界的疫病を克服する切り札、最後の希望です。ウイルスの変異を抑えるためにも、早急にできるだけ多くの方々にワクチン接種を行い、たくさんの人に抗体をもってもらうことが大切です。宿主を失ったウイルスがやがて消えていってくれることを願っています。
国は、今年の7月中に65歳以上の高齢者の接種を終えることを目標に掲げております。国、県、市町村、そして我々、接種を請け負う医療機関等が一体となって、集団接種(体育館等)、個別接種(医療機関)でのワクチン接種をすすめているところであります。 当院でたくさんの方々にワクチン接種を受けていただきたいのですが、
当院ではワクチン接種は通常診療とは並行して行えず、昼の休診時間を利用してワクチン接種を行っているため、残念ながら、ほぼ当院のかかりつけの方といった限られた方のみへの接種、また、接種予定となっております。
宇佐市では、5月15日の土曜日の午後から三和スポーツセンターで集団接種が開始され、65歳以上の方々が200~350人/日で接種を受けています。
6月中まで毎週土曜日の午後に接種を行う予定で、7月3日から場所をウサノピア小ホールに移し、8月8日までの毎週土日の午前午後に接種を行う予定です。
(現時点での予定です。)
集団接種には市役所の職員、医師会病院、各医療機関の医師、看護師が輪番で参加します。当院も7月と8月にそれぞれ半日ずつ割り当てがあり、私と当院の看護師も参加予定となっております。
前述のごとく、この疫病を克服するためには、たくさんの方々にできるだけ早くワクチン接種をしたいのですが、当院での接種能力には限界があり、申し訳ない気持ちです。少しでもワクチン接種に協力したいとの思いから、集団接種会場での接種人数は事前に決まっているので、私が参加したからといって接種人数が増えるわけではないのですが、5月22日と5月29日に、当院での仕事を終えた後に途中からとなりましたが、集団接種業務に参加して来ました。
会場で熱心に働いている、医師、看護師、そして市の職員の方々の姿をみて、心が熱くなりました。熱心に働いている方の中には、その日の当番ではない方の姿も見受けられ、その姿が、私の心をさらに熱くさせました。
新型コロナウイルス感染症という強大な敵、高い壁に、小さな宇佐市で普段は一緒に働いていないものが心を一つにして挑む姿、またその献身さをみて感動を覚えました。
戦国時代の山陰地方に山中鹿之助という武将がいました。
彼は、守護大名家であった尼子氏の家老の家に生まれ、滅亡した主家の再興のため、強大な毛利氏と幾度となく戦い、最後は敗れ、討ち死にするのですが、不撓不屈の精神で三十余年の人生を生き抜いた人です。
彼は若い時、月に向かい、こう祈ったそうです。
「願わくば、我に七難八苦を与えたまえ。」
これは、どういうことでしょうか? 鹿之助は真剣に生きれば生きるほど、その過程において、難と苦という多くの壁に直面する事、この難と苦から目を背けず、この壁を乗り越える努力を行い、乗り越えていくことだけが、自分を成長させ、さらなる真剣な人生を歩める唯一の方法であると知っていたのです。
人は壁にぶつかった時にその真価が問われます。
まずは壁であることに気づき、壁から目を背けず正面から対峙し、壁を乗り越える努力を行いたいものです。小さな壁を乗り越える努力し、乗り越えた者だけが、大きな壁も乗り越えられるのです。
自院での私の業務を完全に遂行できた上での話になりますが、時間の許す限り、自院での個別接種に加えて、集団接種にも参加しようと考えております。
未曽有の世界規模の疫病と闘う大変な時代に、医療人としてウイルスに対峙する責任感、また、対峙できる喜びを感じております。